整備日誌    2004年8月編

8月13日
で、せっかくですから以前不具合の起きたリアピボット部のブッシュも点検しました。今回は何も問題がなく良好な状態でした。
それにしても最近のフルサスMTBを見慣れていると、モールトンのピボットベアリングはなんとも古式ゆかしいというか、まぁ、昔のまんまですから昔方式なんですけど。
ご存じの通り最近のMTBのリアサスピボットにはカートリッジベアリング(転がり軸受け)が採用され、フリクションを最小限にしてショックユニットにいい仕事をしてもらうようになっているのに対して、モールトンは見ての通りのブッシュによる滑り軸受けです。フリクションに関しては転がり軸受けに劣ります。
しかも転がり軸受けの場合、ベアリング交換などの時には装着されている物を外し交換するだけ、しかるべき位置に装着されます。しかしモールトンの場合写真のような軸受けです、銅色のブッシュ自体がラジアル方向とスラスト方向の両方の軸受けを兼ねています。ピボットシャフトに合わせてブッシュを摺り合わせなければなりません。
ガタつかない程度に、しかしきつすぎない程度に適度に摺り合わせ作業が必要となってきます。それには削っては長さを合わせ....という作業を行わなければなりません。はっきり言って時間がかかります。
しかし自転車修理業が部品交換業ではなく、整備業であるとすれば当然やるべき作業です。と言うか昔はこういうことを普通にやっていたのでしょうね。作業をやる人の腕によって性能が変わってくる、修理人にとっては腕の見せ所でしょう。と言っても以前このブッシュの摺り合わせをやったのは私ではなく弟なんですが(^^;
じゃあモールトン、性能的にはダメなのか?と言うと、これまた興味深い物があります。
MTBのように野山を駆けめぐるバイクではないのでサスペンションストロークが大きいわけではないし、そういうところを走るようには設計されていません。あくまでも普通の自転車です。と言うわけで普通に舗装路を乗ると、これがいいんだなぁ。
モールトンはアレックス・モールトン爺さんが「これが最良の自転車なんだ」と自信を持って作った自転車です、昨今のブームに乗って作られた小径車ではありません。必然にして生まれた小径車なのです。小径車ならではのメリットを生かしつつデメリットを解消した自転車です、そのためのサスペンションシステムでもあったりします。
まあ一言で言っちゃうとサスペンションを感じさせないサスペンションです。意識すればわかりますが、あくまでも裏役という感じ。でも普通の自転車なんだからそれでいいのです。趣深い自転車です。

8月23日
先日富士見へ行ったときにKNSG氏の自転車に乗らせてもらいました。まあリジッドで硬いフレームのバイクだったって事もあるのですが、とにかく跳ねてしまい乗りづらく感じました。まあ左前のブレーキだったり他にも私には乗りづらく感じる要因はあったのですが乗っていて結構つらく、たった1回で私も普段のDHバイクに乗り換えてしまいました。氏はというと、うちのLIQUID君がたいそう気に入ってしまったみたいで、この日はずーっとLIQUIDに乗っておられました(^^;
で、氏にはある魅力的なフレームをご購入いただいており、それに今使用しているサスペンションを移植して組み上げることになっていました。が、どうにもサスペンションが硬く、同時にリセッティングもすることになりました。
元々付いていたバイクに装着状態で店の周りをグルッと走ってくると、何ともカタイ、とにかくカタイ、沈まない。プリロードダイアルを調整してみるとなんと6回転もプリロードがかかっていました。が、抜いてもカタイ。途中から沈むのを拒むような動き。
というわけでスプリングを抜いてみると見慣れたマルゾッキ独特の素っ気ないスプリングが出てきました。そしてスプリングには緑のペイント。で、調べてみると驚いたことにエクストラハードのスプリングでした。当然このスプリングでは氏の体重を上回る重さに対応するスプリングで、更にプリロードがあんなにかかっていてはそりゃ硬く感じるわけです。というわけでクランケはマルゾッキのZ−4、2000だか2001モデルです。
ってところで次回に続く。

8月28日
というわけでエクストラハードスプリングでは硬すぎるので、ミディアムをゲット。で、撮影したのが右写真ですが、マルゾッキ、いつから変わったのか、他社製スプリングのようにスプリング自体がきれいに塗装されています。真っ白に塗っているなんてらしくない(^^;
昔は下のスプリングのように何も表面処理されていないスプリングに筆で塗布したカラーが付けてあっただけなんですけどね。
オイルシールやスプリングを注文してもあっけなくビニール袋に入っていただけでしたが、今や立派なパッケージに入っています。
スプリングだって昔はあっけなくビニール袋に入れられていただけなのですが、やはり今や立派なパッケージに入っています。
なおパッケージによると、ミディアムはレートが4キロ、EXハードは5キロということです。

さて、では恒例のバラシに入ります。

まずはオイルを排出。写真では一見汚れているように見えますが結構きれいでした。
上部にあるゴミのような物はクラウンの裏に付いていた泥等で、フォーク内の異物ではありません。
全バラシの図。スプリングの下にある物がダンパーです。パッと見Z−1などのカートリッジ式と似ていますが、中身は違います。
ダンパーユニットを上から見たところ。
真ん中の穴はオイル通路である共に、細いHEXを入れて戻りダンピングの調整をすることができます。
ダンパーユニットを横から見たところ。バルブを閉じた状態です。
ちょっとわかりづらいですが、白いカラーの左にちょっと銀色が見えます。ここが穴になっていてオイルが通ります。今銀色が見えるということは、この穴の部分に左写真の銀色のバルブが入り込んでいるわけです。
バルブを開いたところ。こっちは銀色が見えません。ってことはバルブが抜けていって穴が開いている状態です、写真では見えませんが。
穴がバルブでふさがれていないわけですから、この状態では減衰力をあまり発揮しないということになります。


さて、Z−4では一見カートリッジのようなダンパーが装備されてはいますが単に穴が開いているだけの筒です(^^ゞ
より高級なダンパーになってくると穴だけではなくバルブが装着されていたりして緻密にダンピングコントロールをします。
穴が開いているだけということは、”単純に”考えれば減衰力は穴径と流体の速度に比例します。
ということは、サスペンションのストローク速度が速ければ速いほど減衰力が高まるわけで、ってことはガツンと衝撃が来たときにはしっかりダンピングするけど、コギなどでゆっくりと動いているときにはあまり減衰力は発生しないわけで、ってことは望まれる特性とは逆の特性になってしまうわけで、ってことはわかりやすく解説すると下り系でハードに走ったときの減衰力に合わせると通常時はへにゃへにゃになりがちで・・・ということになります。
でも減衰力調整ができるからそれで調整すればいいじゃんという意見もあるかもしれません、しかしこの調整機構は上で解説したようにバルブの面積を変えるだけです。面積を小さくすることでゆっくり動いているときの減衰力を上げることはできますが、そうすると激しく動いたときの減衰力はより以上に高くなってしまいます。なお、この減衰力調整機構はあくまでも伸び(戻り)側の減衰力調整になりますので、バルブを閉じ気味にして減衰力を上げると激しいライディング時にはゆっくりと戻り・・・と言うことになり、これでは次の衝撃が来る前にサスペンションは元の状態に戻れず、ってことは戻っているときに次の衝撃が来るとそれは縮む方向なわけで、ってことはサスペンションの動く向きが逆ってことで、一瞬にして動く向きを変えるということは理論上不可能なことで、瞬間的とは言え向きを変えるときには一瞬動きは止まるわけで、と言うことは止まったときにはまるでフルボトムしたかのような衝撃が手の平にくることになります。
しかしだからといってダンピングがまるでなかったら、それは昔遊んだ?ホッピングマシンのように衝撃以上に反発してしまいこれではサスペンションの意味がありません。反発しない程度に、しかし遅すぎない程度に素早く戻って欲しい。う〜ん、難しいです(^^;
では使えないサスペンションなのか?いえいえ、そんなことはありません。世の中にはダンパー機構の付いていないサスペンションがたくさんありますし、付いていたとしても調整機構がなかったりしますのでそれらに比べればずっと、ずーっと良いです。ただ上級機種と比べると狙いがピンポイントになってしまいがちであり、性能的にも構造上及ばないところがあるのは事実です。
と言うのをふまえて、スプリング、オイルの番手、油面高さなどをいじってみたのですが、こればかりは現地で走ってみないとなんともわからないと言うのが事実です。
他人事ながら大変興味あります。

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