整備日誌    2005年3月編

3月2日
STAGE2は左右両方にスプリングが入っているのですが、上記のようにソフトスプリングはかなりレートが低いのでいくらプリロードをかけても初期沈みが多すぎやしないかと思い、片側のみソフトにしてみました。しかし2月28日の写真のようにあまりに自由長が違います。このまま装着しただけでは片側のスプリングが遊んでしまうことになるのですがSTAGE2、なんとプリロードダイアル100回転くらいは平気でまわっちゃいます(^^ゞ
よって遊んでしまうことはないのですが・・・・しかしなぜにしてそんなにダイアルはまわるのだろう??
さてそんな状態で現地で走ったみました。ら、”更に動きは良くなった。しかし最後の40〜50ミリくらいは相変わらず硬く感じる。コンプレッションは前半でもっと効かせたい。またコンプ&リバウンド共に質感がない”と書かれております。だんだん動きが自分好みになってきたからでしょうか、リバウンドの動きにも気になる点が出てきました。
と言うわけでまだセッティングは続く。


3月4日
まだ硬く感じるわけだが状況としては良い方向へきているのは事実。本来であればもっと動かしてやる方向にセッティングして行くべきなのであろうけど、ここは一つ気になってきたダンピングの質を求める方向にセッティングしてやることにしました。
”ダンピングの質感がない”と言うのは、ダンピングをあまり感じずバネっぽい動きと感じたことです。
STAGE2はコンプ、リバウンドとも独立した調整ダイアルがあります。だからここをいじってやれば解決するんじゃない?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ダイアルで何でもかんでもできると思うのは大きな間違いです。
バラして確認するとよくわかるのですが、STAGE2の(というか世に出ているほとんどの)ダンパーの調整ダイアルはオリフィスの面積を可変にしているタイプです。このようなタイプの調整方式はダンパーのピストンスピードにかなり依存します。逆をいえば素早く動いたときには調整ダイアルによる違いを感じやすいが、ゆっくり動いたときにはその差を感じづらいという傾向にあります。ま、そうは言っても面積はかなり広い範囲で変えられることが多いので、減衰力を上げればそれなりに動きは硬くなりますが(誰もそんな領域ではつかわない)。
バネっぽくヒョコヒョコ動くのをはじめからもっとしっとりさせてやるために、ここはフォークオイルの粘度を変えてみました。もっと粘度の高いオイルに交換してのトライです


3月6日
そのインプレッションですが”今まで乗った中で一番良い。ほとんど不安なく乗れた。しかしフロントに対しリアが沈みすぎるように感じる。リアが沈むことでフロントの荷重が抜け、接地感が希薄になる。実際フロントが滑って振られたり、荷重抜けが原因と思われる転倒もした(セッティングのせいにしています ^^;)。次回はリアのプリロード、コンプ、リバウンド全て上げて対処してみたい。またフロントコンプレッションのタケノコのセッティングをもっとストローク後半で沈ませるようにリセッティングしてみたい”と書かれております。
本当はリアのセッティングもチョコチョコ変えてノートに記しておいたのですが、フォークのセッティングと一緒に書いてしまうと訳がわからなくなってしまうので、フォークのみのセッティング日記を今まで書きつづりました。
と言うところで終わってしまっております。本当はもうちょっとセッティングを煮詰めて私好みにしたかったのですが、その前に手元を離れていくことになりました。
それにしても自分のバイクのセッティングには時間がかかります。他人の長所、短所だったらすぐに言葉にできるけど、自分のことになるとなかなか表現できない・・・・ってのと似たような所でしょうか?


3月10日
あれは2月の半ば、卓也が三重まで4Xの遠征に行く前日のことでした。「大変なことになってしまいました。クランク折れました」との電話。
とにかく自転車持ってきてと伝えそれが右写真。
卓也曰く「自転車掃除しているときにもげた」とのこと。乗っているときでなくて良かった。
それにしてもものの見事に折れております。「へー、本当に中空なんだ、こんな風になっているんだ」とは外野の感想。まー、それにしても乗っているときでなくて良かった。
しかもそろそろクランク変えようかなぁと言うことで、卓也からはニュークランクのご注文を頂いており、ちょうどそれが入ってきたからタイミングとしてはすごく良かった。
見ての通りわかる人には一目でわかるS社のセカンドグレードクランク。
しかしそう簡単に折れるものではありません。これは使い方に問題があると言えるでしょう。と言うのも、彼はジャンプはもちろんグラインドなどもやったりしてました。このクランクはクロカンレース用パーツです、そういう用途は考慮されていないと考えられます。ので、想定外使用法による結果と思われます。
破断面には破断時の伸びも認められます。そして、もげたペダル側は全周にわたって小さなクラックが認められました。おそらく度重なる衝撃が加えられクラックが入り、それが成長し最後の最後に唯一繋がっていたところが耐えられなくなりプチッともげたように思われます。
さて、そんな卓也が選んだニュークランク、当初は軽さか頑丈さかですごく悩んでいましたが、やはり使い方を考慮し選んだのはセイント。装着後の彼のインプレッションは「すごい剛性、進みが全然違う。ただ長さが違うからちょっと違和感がある」とのこと。ふ〜ん、そういうことをもいっぱし言えるようになったんだ。ま、今までのが首の皮一枚で繋がっていたようなクランクだったと言えばそれまでだけど、長さまで言うようになるとは。ロード乗りの方みたいだ。
そういうわけで三重県は桑名で行われた4Xではエリートクラスで見事3位入賞でした。
それにしても中空鍛造ってどうやって作るんだろう?しょぼいメーカーでは溶接して中空鍛造にしているところもあるけど。


写真 1 写真 2

3月21日
弊店の試乗車君&レンタル号でもあるスペシャライズドEPIC号のリアハブが壊れました。使用しているリアハブは、そこそこな価格と軽さで人気のアメリカンクラシック。フリーが効かず、ペダルを止めてもフリーが回ってしまうというトラブル。足を止めているとチェーンがダラーンとたるみ、そしてディレイラーが引っ張られてしまいます。そのまま乗っているとディレイラーを壊す羽目になってしまいます。
と言うわけでバラす。
外したフリーが右写真。
フリーホイールの構造は各社パテントを持っているのでしょうね、メーカーによって色々構造が異なります。で、このアメクラもパテントに抵触しないようにうまく考えたのでしょう、面白い構造になっております。
この写真ではちょっとわかりづらいですが、写真1は外したフリーをハブ側から撮った写真。3カ所に穴があります。

写真 3 写真 4
写真 5

そこに写真2のような小さなピンとスプリング(写っていませんが)が斜めに入っています。
と言うことは、ピンは常にスプリングの力で外に張り出そうとしております。ここで言う外とはハブ面に対してということで、写真3のスチールプレートの丸穴に張り出すと言うことです。
そしてスチールプレートには長穴が切ってあり、ここにフリーの爪が噛むようになります。
そう、スチールプレートはカムになっているのですね。
さてフリーが効いている状態では斜めになっているピンのおかげでスチールプレートは左に回されます。と、フリーの爪は長穴にガイドされて起き、チャーッと空回りします。
さて、いざコギを入れると斜めになっているピンがスチールプレートを右に回転させます。と、爪はガイドに沿って下にお辞儀するようになり(写真4)、フリーの山と噛み合います。
ちょっと浮かせてわかりやすく写したのが写真5。爪が山に噛んでいるのがわかると思います。
こうやって爪と山は噛み合い駆動力を伝達します。
と言うところで次回に続く。


写真 6

3月23日
さて、何がどう壊れたか?
写真2をよく見るとピンが2つしかありません。で、写真1を見るとピンの入るところが3つある。ってことは1個がどこかに行っちゃった。どこに行ったかというとフリーの穴の中に埋まってしまいました。
埋まってしまってはピンが出たり入ったりできません。変に噛みこんでしまったのでスチールプレートを固定してしまいフリーが効かなくなってしまいました。のでフリー本体を交換しなければなりません。ということで新しいフリーと今までのフリーを並べて撮影したのが写真6。
左が新しいフリー&スチールプレート(カム)、右が今までのフリー&スチールプレート(カム)です。
一見すると違いがわかりませんが、ヨーク見ると新フリーには、サザエさんちの波平お父さんの髪の毛のようなものがチョロッと出ているのがわかりますでしょうか。これ、単なるスチールワイヤーを曲げたものですが、新フリーにはそんなものが付いていました。そして旧フリーにはあったピンとスプリングは省かれております。
またスチールプレートにも旧型はご丁寧に丸穴がいくつも開けられていましたが、新型はプレスで切り込みを入れただけになっております。
察しのいい方ならどのように機能するかもうおわかりでしょう。わからない方は宿題です(^^ゞ
たまには読むばかりではなく考えてみるのも悪くないでしょう。


3月27日
さて回答。
まず旧型にはピンとスプリングがあり、これがカムを動かし、カムによって爪をフリーの歯に当てたり当てなかったりしていました。写真2を見てわかるとおりピンとは言ってもかなり短いピンです。こんな短いピンが斜めにカムに当たっているわけです、そりゃぁいつかは摩耗もするでしょうし、摩耗したらあんなに短いピンです、コケもするでしょう。コケたからこそフリーに埋まってしまったんでしょうね。
で、アメクラは考えた。もっと信頼性を上げつつ、しかしコストダウンにもなるようなシステムを。
そして、リリースされたのが今回の対策後のものでしょう。
まず3つのピンとスプリングが1本の曲げたスチールワイヤーに変わりました。部品点数は激減しコストも激減、しかも信頼性も上がっていると思われます。曲げたピンならちょっとやそっと摩耗してもまったく問題ありませんから。
そして丸穴のスチールプレート(カム)から切り込みを入れただけのスチールプレートへの変更。製作上打ち抜くわけではありませんからゴミが出ません。
また写真3及び4をよーく見ると、スチールプレートの下のハブ本体にピンによる摩耗が見られます。そりゃそうです、スチール製のピンがアルミのハブを叩くわけですからアルミは負けちゃいます。が、切り込みを入れただけのスチールプレートなら、スチールワイヤーが叩くのは切り込みされたスチールプレートですからアルミ製のハブ本体にはワイヤーが当たることはありません。ので、ハブ自体が摩耗することはありません。
いかがでしょう、信頼性とコストを両立させた新型フリー、最初見たときには「ずいぶん安っぽい作りだなぁ」と思ったものの、よくよく考えてみるとなんとも考え抜いた素晴らしい(?)ものであると思えてきました。ま、最終的には今後どうなるかで結論を出さなければならないわけですが、おそらくこのまま問題なくいけてしまうのでは?と思われます。
それにしてもアメクラのハブ、なかなかに素晴らしいです。
多くの方がアメクラに抱く印象は「軽量」だと思います。アメクラ社もそれに応えるべく軽量ハブにするためにフリーはアルミ製です。そして驚くことに(?)、フリーの歯までアルミです。想像してください、普通のフリーではフリーを効かせているとき爪はフリーの歯を叩きます。アルミの歯では簡単に摩耗してしまうでしょう。それじゃマズイと考えたアメクラ社は、爪の作動にカムを使い、フリーを効かせているときには爪がアルミ製の歯を叩かないようにしています。と言うわけでアメクラのハブでフリーを効かせているときに「チャリリリリ」と音がするのは、爪がフリーの歯を叩いているのではなく、ピン(もしくはワイヤー)がスチールプレートを叩いている音なんですね。
素晴らしいです、軽さのためには歯までもアルミ製にし、しかし歯を摩耗させないようにフリーが効くときには爪が起きる。しかも対策後の物では万が一トラブルことがあってもおそらくワイヤーかスチールプレートでしょうから、高額なフリー本体には影響を及ぼさないように考えています。
もちろん壊れないのがベストですが、壊れた際には安価な物が壊れるようになっています。

さてアメクラのフリーではコギを入れた瞬間「ガツン」というダイレクト感はなく、ソフトに駆動される感触です。これは爪がダイレクトに歯に当たるのではなく、まずカムを動かしてから爪が寝て歯に当たるからなんですね。トライアル的な用途には適しませんが、これは軽量クロカン用ハブです、そう考えると何とも素晴らしいハブだと思いませんか?


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