整備日誌    2005年8月編

8月1日
さてマニトウ、ウリはTPC(Twin Piston Chamber)に代表される伸び縮み独立した減衰力制御。TPCは読んで字のごとし、二つの独立した減衰力調整ピストンを採用するということ。伸びは縮みに影響されず、縮みは伸びに影響されずに望みの減衰特性にすることができます。マニトウはずいぶん前からこのシステムを採用していました。
しかし今回のBLACK COMPはTPCではなくFFD(Flude Flow Damping)、すなわち流れによる減衰力制御ということになります。が、TPCと何が違うかこれだけではわからない。マニトウのサイトを見てもわからない。一般的にはコンプレッションダンピングが可変ではないと言われ、それだけの違いかと思ってしまいますが実はTPCとは大違い。おそらくリバウンドダンパーは同じ、もしくはちょっと違う程度でしょうが、コンプレッション側が全然違う。TPCのコンプレッションダンパーはリバウンドと同じようなシムを用いた内周支持タイプの物。FFDはどうやら他の機種も今回のクランケと同じようなオリフィスタイプのダンパーのようです。
さて7月19日のリバウンドダンパー解説で書き忘れたことがあります。上の写真でバルブに赤いリングがあります。そしてこの上下にシムがあるわけですが、このリングの上下にあるシムは役目が異なります。
まずこのダンパーはアウターに固定されています。そして衝撃が加わるとアウターが上に向かって動くわけですが、このダンパーはあくまでもリバウンド用。縮み側には影響して欲しくないので、下のシムは油圧を逃がすように柔らかいスプリングで保持されるので、地面から衝撃を受けダンパーが上に動いたときに容易にオイルを流すように下のシムは簡単に開きます。
そしてこんどは戻るときには動きが逆になりこのバルブ本体が下に向かっていくので、下のシムはその勢いでバルブに押しつけられます。で、オイルは写真に写っている穴(オリフィス)とバルブに設けられた穴を通って上に移動します。この時バルブにはシム(赤いリングの上にある薄いシム)があり容易にオイルが流れないように(減衰力を発揮するように)しています。が、あまりに速い速度で動いたときにはシムをたわませオイルが流れ減衰力が高くなりすぎないようにします。
はぁ、ここまでご理解いただけたでしょうか?
さて、以上をふまえコンプレッション側のピストンを見ます。と、7月11日の写真のように穴が開いているだけ。と言うことは、このバルブってコンプレッション側バルブだけどしっかりリバウンド側にも効いちゃう事になります。う〜ん....
コンプレッション側ダンピング=コンプ側バルブによる減衰力
リバウンド側ダンピング=コンプ側+リバウンド側バルブによる減衰力
ということになります。
う〜ん、何のための独立式ダンパー....
更に更に、マニトウのホームページを読んでいくと「低圧大容量システムがキャビテーションと熱による問題を起こさないようにしている」と書かれていますが、キャビテーションを起こさないようにするには高圧にする必要があるんですけど....
さすがはアメリカ製品、通販番組のようにオーバーに書いているんですかねぇ?


8月11日
KJ氏のバイクをいじっているときでした。ヘッドパーツをキングに変えて、もちろん一緒にヘッドチューブのフェイスカットも行って組み上げたときでした。どうにもハンドルが重い。
ヘッドのガタをなくす程度までプリロードをかけるとどうにもハンドルが重くなってしまいます。作業ミスか?と焦るものの今一度バラして組み上げても結果は同じ。信頼を置いているキングのヘッドパーツに裏切られたか?と思ったりもしたのだが、組み上げた状態でヘッドパーツ周辺をよーく見るとステムとスペーサーに隙間があるのを発見。ってことはちゃんとまっすぐ押してないということか?
ステム&スペーサーを外し色々調べてみると、ステムの上下面が平行ではないことがわかった。
右写真を見ていただくとわかるとおり光が漏れます。なおこのスペーサーはちゃんと平行が出ているのでステムに問題ありと言うことです。
試しに他のステムを入れてみたら何の問題もなくスムースにハンドルは回転しました。
さてこのステム、有名なあるメーカーのステムです。メーカーのサイトを見てみると、鍛造CNC仕上げとなっております。が、肝心のステム上下面はCNC仕上げされておりませんね。手抜かりです。
さて、鍛造と言うからにはこのステムを作る際に親となる型があるわけです。と言うことは、同じ型から作られた相当数の不具合品が出回っていることも考えられます。
あなたのバイク、ハンドルを回すと重くありませんか?そしてそのバイクには有名なアメリカブランドのステムが使われていませんか?


8月20日
さて今回は2005ロックショックスの目玉であるモーションコントロールを観察してみましょう。
今一度モーションコントロールの機能を復習しますと....
本来MTB用サスペンションというのは快適な乗り心地を得るために装着されるものではなく(もちろんそれが目的の物もありますが)、常にタイヤを地面に接地させておくために開発された物です。タイヤが地面から離れてしまっては加速も、制動も、操舵もできないから(一部上級ライダーにおいてはそうとも言えないけど)。
しかしながら接地性能ばかりを追い求めると自転車用サスペンションにおいては不具合が出ることもあります。それはコギを入れたときの不用意な動き。
自転車はトルク変動の大きい駆動形式なのでコギを入れるとふわふわ動いてしまい、それがパワーロスに繋がるのは皆さん体験済みだと思われます。その対処のためにロックアウト機能が出現しました。
ロックアウトさせることでサスペンションの機能を殺し、リジッド化させることでコギによるロスを削減しました。が、これでは本来のサスペンションの目的である”常にタイヤを接地させる”という機能をも殺してしまうことになり、それすなわち加速、減速、操舵ができなくなると言うことです。本末転倒です。ではどうしたらよいか?
いち早く回答したのがカーナッツや5thエレメントに代表されるユニット=マニトウのSPVですね。
エアの容積と圧力をセッティングすることにより、ピストンスピード(ストロークスピード)の遅い領域で縮み側の減衰力を上げ、コギによるロスを低減させようという物です。今にして思えばこれはDH系から採用されたシステムでしたね。DHバイクはサスペンションの動きを重視するあまり、どうしてもコギによるロスが出ておりました。いくらダウンヒルとは言え、漕げる場所があれば思いっきりコギを入れますからね。
コギと言えばクロカン。そう、クロカンこそコギを入れるので不用意なふわふわは避けたいんですよね。と言うわけでクロカン系にもSPVタイプは浸透してきて、そしてマニトウ陣営とは違った角度からふわふわ対策に乗り出したのがロックショックスのモーションコントロール。
SPVもモーションコントロールも完全なロックアウトにはならず、動きを最小限に押さえたシステム。
最小限と言ってもストローク量を減らすのではなく、縮み側減衰力を上げて動きづらくさせています。それをSPVではエアで、モーションコントロールではスプリングチューブのたわみで実現させています。
ま、厳密に言えば多少なりとも動く分だけロックアウトに比べるとロスはあるんだろうけれど、上りにだってギャップはある。そのギャップでタイヤが宙に浮いてしまっては(もしくは後輪がスリップしてしまっては)結局足を着いてしまい漕げずに押さざるを得ない。
と言うわけでプラスとマイナスを考えた結果、トータルでプラス分の多くなるシステムとして考え出されたシステムですね。
そんなシステムですが、上記のようにSPVとは違った方法で対処しているのがロックショックスのモーションコントロールです。

と、前置きが長くなったところで次回に続く。


8月22日
モーションコントロールは完璧なロックアウトにはならずロックさせても微妙に動きます。その理由は上記に書いたとおりギャップを越えたときにちゃんと地面に追従させるため。しかしその状態で大きなギャップを越えたらどうなるか?
例えばレバー解除する間もなく道は下りになりそこに大きなギャップが。
大丈夫、そんなときにこそモーションコントロール機能が働きオイル通路を開きちゃんとストロークしてくれます。
と、言われても仕組みがわからなきゃイマイチ理解できない。
というわけでモーションコントロールをよく見てみますか。

その前にモーションコントロールは2つの調整機構があります。一つはバルブの開閉をする
 ・コンプレッション調整ノブ
そしてどの程度の衝撃が入力されたかによりオイルがブローオフ(ストローク)させるかを決める
 ・フラッドゲート調整ノブ
これを覚えておいてください。

これがモーションコントロールの要となっているスプリングチューブです。
白い物がスプリングチューブと言う樹脂製の物。スプリングチューブの中にはロッドがあり、このロッドは下部(写真では左になります)にあるバルブに繋がっています。
そのロッドはモーションコントロールユニットてっぺんにあるフラッドゲート調整ノブ(写真ではHEXレンチ)を回すことで上下に動かすことができ、その位置でどの程度の衝撃が入ったときにオイルがブローオフしてサスペンションがストロークするかをセッティングできます。
まずトップに付いているコンプレッション調整ノブをロック位置にすると、油圧回路が閉じロック状態になります。が、上記に書いてあるように完璧なロックにはなりません。何故?というと、この白いスプリングチューブが樹脂でできており、これがたわむから微妙に動くのです。
油圧回路は閉じているけどケースがたわむから微妙に動くというわけですね。
スプリングチューブを下から見た様子。上写真で言うと左から見た状態ですね。
銀色のバルブがあって白いスプリングチューブとの間に黒っぽく見える部分があります。ここがオイル通路。
と言うわけでこれは通路を開いている状態ですね。
コンプレッション調整ノブを回しバルブ通路を閉じたところ。黒く見えた通路がなくなっています。
TAKUYA曰く「スパゲティにかける粉チーズの出口」とはうまい表現です。
なお、モーションコントロール自体はコンプレッション側に働く物ですので、これはコンプ側のオイル通路面積を変えていることになるのでコンプ側の減衰力調整でもあるわけですね。よってレバー位置によりコンプレッションダンピング調整ができることになります。
さて気になるのがスプリングチューブの中身。通常スプリングチューブはバラさないことになっているのですが開けちゃいます(注:後述)。
と、左写真のようなバルブが取り出せます。これがフラッドゲートバルブ。
真ん中に黒い部品があり、これはスプリングチューブトップから伸びているロッドに繋がります。
これは指でフラッドゲートバルブを押した状態ですね。
ロッドは金属製なのでロッド自体がサスペンションの動きによって動いちゃう事はないのですが、スプリングチューブ自体は適度にたわみますのでケースがたわむからロッドがフラッドゲートを押し開くことになります。
だからコンプレッション調整ノブをロック状態でギャップに突入しても、ロッドがゲートを開くことでオイルがブローオフし、サスペンションがちゃんとストロークするんですね。


ということでご理解いただけたましたでしょうか?
私自身バラスまでは構造についてある程度はわかっていたのですが、こうやってバラシて考えるともっと色々なことがわかってきました。
今こうやって書きながら「もしや、あれをああしたらもっとこうなるのかも??」と思っているんですよねぇ。と言うのも弊店の試乗車君に装着しているPIKEをもうちょっと自分好みにしてみたいので。でも解決の糸口はだんだん見えてきました。

さてモーションコントロール、上記をふまえて今一度考えると
・コンプレッション調整ノブの開閉でコンプレッションダンピングの調整ができる。
・ブローオフの設定はフラッドゲート調整ノブでできる。
・フラッドゲートによるブローオフは、”基本的には”コンプレッション調整ノブがロック位置にないと機能しない。なぜならばスプリングチューブがたわむ前に油圧が逃げてしまうから。
・しかしフラッドゲート調整ノブを目一杯ブローオフしやすい位置にセットしておくとコンプレッション調整ノブに関係なくブローオフする。

なお、スプリングチューブは基本的にはオーバーホールすることにはなっておりません。今回はたまたまTAKUYAのPILOT SLをロックショックスの扱い元であるジャイアントさんに、メンテに出す際にバラしてもよいか確認してからこれら一連の作業を行いました。
上記のようにバラしても元通りに組めばおそらくなにも問題なく機能するとは思いますが、それはもちろん保証対象外の作業でもあります。
いじるのは勝手ですが、それは自己責任ですのでお忘れなく。


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