整備日誌    2006年2月編

2月2日
排出したオイルがあれだけ汚れていたわけです、そしてインナーチューブもあれだけの損傷を受けていたわけです、それを受ける側のアウターチューブが問題ないわけはありません。
というのが右写真。
見ての通りの状態です。何度か書いておりますがロックショックスでは一部ロワーグレードを除き、ほとんどのモデルが軽量化のためにマグネシウムアウターを採用しています。マグネシウムは実用金属中もっとも軽い材料ですので軽さを求めたい自転車用材料としてはとても魅力的な材料なわけです。
が、高価でもあるしなんと言っても大変酸化されやすいという特徴をも持っております。ですので耐酸化対策をしなければならないわけです。外側は塗装して対策してありますが内側は…というか内側はダストシールでしっかりシールされているという前提の元に作られていますので特に対策は施されておりません。
しかしダストシールがちゃんと機能していなかったり、インナーチューブに傷等があり異物混入の恐れがあるにもかかわらずそのままでいると…この写真のようにガビガビになってしまいます。そして上面にあるブッシュも傷だらけになっているのがわかるかと思われます。ブッシュは下の方にも入っていますのでこの場合両方とも交換しなければならないわけです。
さて、ブッシュはリング状の物で、突き当たることによって位置が固定されるわけで、ってことは当然それなりの精度がブッシュにも装着するアウター側にも求められるわけで、しかしアウターがこのような状態ではたとえ外すことができたとしても新しいブッシュを圧入する際にブッシュ裏側はギタギタになりとても精度良く装着するなんて事はできません。
というわけでアウター(ロワーレッグ)アッシー交換の必要があります。

ロックショックス基本分解工賃 5250円
ダストシール 3675円
アッパーアッシー 34335円
ロワーレッグアッシー 26985円
ここまでの金額 70245円也

ははは、既に新品の SID XCの価格を超えてしまいました(^^;
しかし、まだ続くのであった…


2月6日
しつこいけどオイルがあんな具合です、アウターもあんな具合です、インナーチューブもあんな具合です、とくれば当然インナーの中に入っているダンパー&エアサス部にも興味は向けられます。
で、こんな感じ。
上がエアスプリング側で下がダンパー側。
エアスプリング側はやはりこんな感じです。ヘドロ漬け。それに対し意外やダンパー側はオイルは汚れていたものの特にひどい状態ではありませんでした。しかしオイルはそれなりに汚れていたしこの当時のSID XCは右側はダンパーのみならずエアスプリングも兼ねているので、エア室とオイル室のO−リングは交換すべきでしょう。
当然エアスプリング側ASSYは交換ですね。
と言うわけで

ロックショックス基本分解工賃 5250円
ダストシール 3675円
アッパーアッシー 34335円
ロワーレッグアッシー 26985円
エア/ネガスプリングアッシーキット 11340円
ハイドラエアリビルドキット 4095円
ここまでの金額 85680円也

となりました。
ここまでくるとあともうちょいで更に上級グレードのSID TEAMが買えてしまう価格になります(^^;
まあさすがにこの価格になってしまうとさすがに直す意味もないのでフォークお買いあげとなりました。
まぁ定期的なメンテナンスをしてくださいとは言っても、お金をかけても見た目は変わらないし、その割にお金はかかるし、あまり気の進まないことかもしれません。
が、しかし、何もしないでいるとこのようなことも起こり得るということで、たまにはメンテナンスをしてあげましょう。


2月17日
KJさんにペダルのガタがあるから調整して欲しいと言われました。
ま、ペダルって言ってもベアリングで保持されているわけですから構造はハブなどと同じ。簡単に調整できる…と、この時点では思っていました。
ちょっとネジを緩めて構造を確認すると、うんうんこれならネジをちょこっと締めるだけ…のはずが、ガタを取るくらいまで締めるとペダルの回転がやたらに重い。で、ちょっと緩めるとすぐガタが出てしまう。
なんか変だ。
で、例によってバラし始めるわけです。
まずはバラしたシャフトが右の写真。
この写真には写っていませんが右端にはナットがありその脇の銀色のところにはカートリッジベアリングが取り付けられます。そしてクランクに付く側にはO−リングが。これはもちろん異物混入防止のためです。
O−リングのところの幅広の銀色は、ここにもベアリングがくるわけです。
その幅広部にくるベアリングがこの写真。
これもカートリッジタイプのベアリングではあるのですが、よく自転車に使われるベアリングとはちょっと違いますね。
通常自転車用として使われるカートリッジベアリングは内筒と外筒があって、その中に鋼球なりニードルローラーが入っているのがほとんど。こんな感じ。
が、しかしこのペダルに使用されているニードルローラーベアリングには内筒はありません。ローラーが直にペダルシャフト上を転がります。
このようなタイプのベアリングを使用するのは何故か?
ペダル高さを抑えたかったのか?
だって内筒分薄くすることができますから。でもいわゆるデカペダルだからあまり関係ないかも。
それより耐荷重性をあげたかったのかな?
ニードルローラーベアリングは通常の鋼球のベアリングに比べ接触面積が増えますので耐荷重性は高くなります。しかし接触面積が増えることで抵抗が増えてしまうのは致し方ないとして、異物混入などが起こるとすぐさま回転に悪影響を与えます。更にこのニードルローラーベアリングはペダル軸自体が”ころ”と接触するので、万が一傷でも付いたらベアリング交換のみならずシャフトも交換せざるを得ません。ですので異物混入に関してはしっかりとした対策をとらなければなりません。
そんなわけでこのペダルにはちゃんとダストシールとしての役目を担ったO−リングが付いているのです。
う〜ん、素晴らしい…で、話しが終わらないのがこの整備日誌。
「ふーん」と仕組みを推測しながら色々と考えると「なんじゃこりゃ?」となってくるのです。
さあ、みなさんもこの先どのような展開が待ち受けているのか推測してみてください。
だって俺一人で「ふむふむ」なんて考えて、納得してももったいないじゃないですか。


2月18日
さて今一度このペダルの部品構成を確認してみましょう。
ペダルシャフトの写真を見つつ整理すると、右から
 ・ナット(写真には写っていない)
 ・カートリッジベアリング(写っていない)
 ・ニードルローラーベアリング(ペダル内)
 ・O−リング
 ・ペダルシャフト
 ・ペダル本体(以降ケーシングと呼びましょう)
となります。
ケーシングとシャフトはベアリングで支持され、シャフトの右に位置するベアリングは上の3つ写っているカートリッジベアリングの写真と同じ物で支持され、ケーシングに打ち込まれているニードルローラーベアリングと共に2つのベアリングによって上下方向は支持されます。
では左右方向は?と言うと、右にはナットがありますのでこのナットによって位置決めされます。反対方向は?と言うとO−リングがシャフトに当たり、これがケーシングにも当たって支持され…って、えっ?O−リングで位置決め?そうなんです、O−リングで位置決めさせているのです。
ちょっと考えてみてください、O−リングはシャフトとケーシングの間にあるわけです。ペダリングしているときはシャフトは回転しませんがペダルは回転します。ってことは方や回転して方や回転しない。ってことはこのO−リングは擦りつけられていることになります。
擦りつけられていると言うことは抵抗もそれなりに多くなるわけで、そうすると何のためのベアリング類なのか…
更にO−リングを擦っているということは、使っているうちに摩耗するわけで、だから今回もガタが生じたわけで、ってことは使用していると確実にガタが生じるというわけです。
しかも擦るということはO−リングの擦りカスが出てくるわけで、摩耗してガタが発生してくると異物も混入しやすいわけで、にもかかわらず使用されているベアリングは異物に弱いニードルローラーベアリング…
ガタが出てもそのまま乗っているとシャフトとケーシングが干渉し、そうすると金属同士が当たり、鋼のシャフトとアルミのケーシングが勝負すると当然アルミは負けるわけで、そうするとケーシングは削られバリが出てくるわけで、そうなるとO−リングが擦る前にケーシングがシャフトに干渉してしまい、そうすると金属接触するから回転が異様に重くなる。
だからはじめ簡単にガタ調整ができると思ってナットを回しても重くなるだけで、重くならない程度に緩めるとガタが出て…ってのはこういうメカニズムだったのですね。
仕方なく対策(いや将来的にまた同じようなことが起きるから対応だな)してその場はしのぎましたが…
それにしてもこのペダルはシマノDXペダルの倍以上の価格がします。見た目はとてもスタイリッシュで有名ライダーの名を語るそそるペダルですが、中身を知ってしまうとちょっと愕然としてしまいます。
大変有名なブランドなのですが、シートポストのサイズが微妙に違ったりとか、ハンドルが曲がっていたりとか、最近あまりいい噂聞かないなぁってなところです。


2月20日
本日発売の雑誌に、今私の中で旬な物の紹介記事がありました。本当は違う題材を日誌に書こうかと思ったのですが、間違い(勘違いなのかな?)やインプレッションがかなり違って書いてあったのであえてそれに関して書いてみましょう。
物はここのところ登場回数の多いKJさん(^^; のMAVERICK SC32フォーク。
このフォークの特徴はシングルクラウン倒立フォークと言うこと、そして登りに有利になるようにストロークが縮むクライミングモードがあること、そしてなんと言ってもカッコイイことでしょうか。

さて雑誌によると
1.倒立フォークは路面追従性が良くなる
  のだそうです。
で、インプレッションでは
2.バネ下が軽いことがわかる
  らしく
3.ストローク後半は使い切れない
  けど
4.エア圧さえしっかりと出せば走りを楽しめるに違いない
  と感じ、
5.この硬さはネガティブスプリングが硬すぎるから
  ということです。

実はKJ氏から「ストロークを有効に使い切れないから何とかして」と言われバラすことになったのですが、KJ氏も(私も)上記3の現象は感じました。っていうか全体的に硬い。では他の1〜5はどうなんだろうか?と言うと、このフォークに関しては残念ながらこの記事は正しくないと言えてしまうことがわかりました。
と言ったって私だってバラしてはじめてその構造やらがわかったので、パッと乗っただけのインプレではわかり得ないでしょうから致し方ないですが。

では解説していってみますか。ってところで次回に続く。


2月21日
1.倒立フォークは路面追従性が良くなるってのは本当なのだろうか?

なんで倒立だと追従性が良くなると一般的に言われるのだろうか?
それはバネ下重量が軽減できるからです。インプレライダーさんもそのように書かれていますね。ただその一般論が一人歩きしていないだろうか?
さてバネ下とは?というと、サスペンションの動く部分から下すべてのこと。普通の正立式サスペンションだったらアウターから下だし、倒立の場合はインナーから下。
ここが軽くなる=質量が軽くなるということで、物には慣性が働くので動く部分は軽いにこしたことはない。ここが重いと慣性で勢いあまって動きすぎてしまう。そうすると追従性が悪くなるのでバネ下は軽い方がよいのですね。
ところでサスペンションにはオイルやバルブ、スプリング、その他諸々が入っているわけです。正立式フォークの場合これらはアウターチューブに入っています。アウターに入っているということは動く側に入っていると言うことで、これではバネ下の軽減にはなりません。ですのでこれらの重い物は動かない側、すなわち上に持っていきたい。ので、倒立という考え方ができました。
じゃあ倒立ならバネ下が軽いから追従性が良くなるじゃんと考えがちなんですよねぇ…

はっはっは、また次へ続くのであった。


2月23日
さて下記写真、マベリックSC32のバラした写真です。

MAVERICK SC32 左レッグ MAVERICK SC32 右レッグ
マベリック SC32 左インナーレッグ
右側が上側
マベリック SC32 右インナーレッグ
左側が上側

これらの写真にはアウターレッグが写っていませんが当然あります(^^;
これらのパーツはそれぞれのインナーチューブ内に入っています。そしてこれらが”セットされた状態”でアウターに装着されます。
いかがでしょう、理解できましたでしょうか?

しつこいですがマベリックSC32は倒立フォークです。インナーが下にきてアウターが上に位置します。どうでしょう、下にくるインナーチューブ内にこれらの部品がきます。下=動く側です。動く側にこれだけのおもりがきます。っていうかアウターはこれらを収める単なるケースになっているにすぎません。おもりはすべてバネ下にきちゃっているのですね。ははは、バネ下軽くならない(^^ゞ
ま、あえて言いますと私もバラして初めてこの構造に気づきましたし、倒立を採用することでバネ下を軽くしようという構造にしているのは、自転車用ではKOWAのGISM FORTYくらいではないでしょうか?
私もすべてを知っているわけではないので確証はありませんが。
ただバネ下を軽くする=重い物が上に行く=重心が高くなるとも言えますので、バネ下が軽いのがベストとは一概には言えないです。
ですので
倒立だからと言ってバネ下が軽くなるわけではない。それ故倒立だからと言って路面追従性が良くなるというわけでもない。
です。
というわけで1.と2.は間違いと言うことになります。

3.ストローク後半は使い切れない
というのは私もKJ氏も感じましたので記事と同感。
では
4.エア圧さえしっかりと出せば走りを楽しめるに違いない
ってのはどうだろうか?
まあインプレ程度の時間じゃなくて、オーナーになればもっと色々感じ、そして自分好みにしていきますよね。しかも一番簡単にできるのがエアセッティング。
で、これはオーナーであるKJ氏がさんざん試したあげくエアだけじゃどうにもならないから今回セッティング依頼を受けたわけなのでこの4番も正しいとは言えない。
では
5.この硬さはネガティブスプリングが硬すぎるから
というのはどうでしょうか?
上のレフトレッグの写真を見ながら考えるとわかるかも。でもあの写真だけじゃわからないか。


2月25日
さてこのサスペンションのレフトレッグを考察してみましょう。
上の写真のレフトインナーレッグ中のバネが付いたもの(ネガティブスプリングアッシーとでも呼びましょうか)をちょっと左に寄せてみました。
「ここへ来る」と書かれているのが”ふた”でインナーチューブにねじ込みます。ふたにはちょうどネガティブスプリングアッシーのシャフトが通る穴があって、シャフトはふたから上に飛び出てアウターに繋がります。このシャフトのてっぺんにはエアバルブが付いています。エアを注入するとエアはシャフトの中を通ってネガティブスプリングアッシーの下に通じます。
さて組み付けられた状態を想像してください。
インナーチューブの中にネガティブスプリングアッシーが入り、それはふたされる。そしてシャフトはふたから飛び出てアウターに繋がり、そのてっぺんにはエアバルブがある。
エアを注入するとエアはシャフトの中を通ってネガティブスプリングアッシーの下端からインナーチューブ内にエアが入っていきます。と、空気圧でネガティブスプリングアッシーはふたに押しつけられます。エアを注入すればするほど空気圧によってネガティブスプリングアッシーをどんどんふたに押しつけます=ネガティブスプリングをどんどん縮めます。
右写真は自由状態の”ポジティブ領域”と”ネガティブ領域”ですが、実際には空気圧によってネガティブスプリングがどんどん潰されポジティブ領域が増えていきます。
実際エアを注入するとぐんぐんフォークが伸びていく=ネガティブ領域がぐんぐん潰されていくのがわかります。

ここでサスペンションの動きを想像してください。
自由状態では注入されたエアによりネガティブスプリングは潰されポジティブ領域が増えます。
ではストロークした状態ではどうなるでしょうか?
インナーチューブがアウターチューブに入り込んでいくわけです、上の写真でシャフトはアウターに繋がれていると書きました。ということは、ストロークしていくとシャフトはそのままにインナーがどんどんアウターに入っていく=ポジティブ領域がどんどん潰されていくわけです。さて、その状態でネガティブスプリングがどうなっているかを想像してみましょう。自由状態よりもっと加圧されているわけです、ネガティブスプリングはもっと強い力でふたに押さえつけられることになります。
さて自由状態でさえもポジティブスプリングはふたへ押さえつけられ、ストロークした状態ではもっともっと強く押さえつけられるわけです。ここでネガティブスプリングを弱くして果たしてストローク後半の使い切れない領域を使えるようになるでしょうか?残念ながらほとんど変化はないでしょう。
と言うわけでネガティブスプリングを柔らかくしてもストローク後半の硬さにはほとんど影響しないと言えるでしょう。

2月27日
ところでネガティブスプリングの役目って何?と考えると、それにはまた上の写真を見ながら頭の中で想像してください。
ネガティブスプリングはコンプレッション側にはほとんど影響を与えません。衝撃を受けてフォークが縮み、そしてフォークは戻るわけですが、そのままの速さでフォークが戻ると伸びきったときにフォークのスピードは突然0になるのでガツンと手に衝撃がきちゃうのです。
サグをとっているしリバウンドダンパーもあるんだからそんなことないだろう?と思う方もいるかもしれませんがでもやっぱり手に衝撃がきちゃうのです。実際10年くらい前のフォークはリバウンドスプリングがなかったから結構手にガツガツきます。ええ、私の通勤号なんて当時のやつですからかなりきますもの。
そういうわけでネガティブスプリングという考えが出てきたのはSIDが出た頃かな?
ま、そんなわけで今やほとんどの物がネガティブスプリングを装着しています。試しにあなたのMTBのフロントタイヤを片手で押さえてフォークを引っ張ってみてください、ね、ちょっと伸びるでしょ。それがネガティブストロークなのです。
で、マベリックですが、先日検証しましたようにエアを入れれば入れるほどネガティブスプリングを潰しちゃうわけですね。一般的にアグレッシブに走る方や体重の重い方はエアをハイプレッシャーにしますね。するとネガティブスプリングはどんどん潰されネガティブスプリングの役目を果たさなくなってきてしまいます。
ダメじゃん。
いえいえ、ここからがマベリックの反撃。
このフォーク、ネガティブスプリングだけでも5種類ものレート違いがあるようです。今までネガティブスプリングにレート違いがあるフォークなんて見たことがありません。なかなかやってくれます。
しかもこのフォークかなり色々いじれます。かなり様々なセッティングができます。おもろいです。
で、わかったこと。もしかしたらデフォルトの状態って最悪な状態かも。いや、アメリカンなマッチョマン向けになっているのかも。
そんなフォークもセッティングしていくと標準的な日本人にもかなり良いフォークになってきました。
でも所々見ていくとアメリカンな作りもあったりでそれはそれで面白いのですけど。
ってなところでセッティング編に続く。


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